圧縮記帳と将来支払う法人税額について再考
圧縮記帳という会計処理があります。これは国などから補助金を得て設備を購入した場合に、実際には補助金のうち4割位は法人税の増加により消えてしまって効果が薄くなるので、それを防ぐために補助金と同額を圧縮損という形で費用計上する(直接減額方式)ものです。これについては、「あくまでも税金の繰り延べであり、節税になるわけではない」と様々なテキストに書かれていますが、サラッとそのように説明しているだけであり、私が調べた限りでは数学的な証明がされていません(具体的な数値を例示して計算するだけでは、証明にはならない)。
以前、定額法については簡単な証明を与えたのですが、今回はもう少し一般化して考えてみます。
前提:第1期の期首に国庫補助金を取得して、それを充当して簿価の備品(耐用年数年, 残存価額)を購入。
この備品の購入が無かったとした場合の、第期の利益をとします。また第期における、この備品と同じ償却方法を取得価額のものに適用した場合の減価償却費をとします。
また法人税率はで一定とします。
圧縮記帳を行わない場合、第1期の利益はになり、第期の利益はとなるため、第1期から第期まで支払う法人税の累計額はとなります。…(1)
圧縮記帳を行う場合、第期の利益はなので、第1期から第期まで支払う法人税の累計額はとなります。…(2)
ここで、(1) = (2)となっていれば、圧縮記帳を行っても支払う法人税の累計額は変わらないことになります。実際に使われている減価償却法でこれを確認してみましょう。なお、圧縮記帳を行う場合と行わない場合で残存価額は変わらない前提*1です。
- 定額法の場合
となります。
.
.
ということで(1) = (2)となります。
- 定率法の場合
償却率をとすると、となります。
圧縮記帳を行わない場合の償却率をとすると、
.
圧縮記帳を行う場合の償却率をとすると、
…(*)
ここで、N期後には圧縮記帳を行うかどうかに関わらず、残存価額がになるため、
.
そのため
ということで(1) = (2)となります。
生産高比例法や200%定率法については、真に驚くべき証明を見つけたが、この余白はそれを書くには狭すぎる面倒(笑)なので割愛します。どなたか証明しておいて下さい。
さて、上記のような関係が満たされないような減価償却法を考えだすことも恐らく可能で、その場合は圧縮記帳を行うかどうかによって節税(脱税)が可能ということになります。ただ、一般に公正妥当と認められた会計原則に沿った減価償却法ではないはずなので、間違いなく監査で引っかかりますが。
*1:これについての記述も見つからなかったのですが、記帳方法で価値は変わることはないはずなので、きっと妥当な前提のはず…